右下5番の9年モノの金パラインレーをジルコニアインレーに付け替えた。 これはおれとしては 審美治療のつもりだったが、実際には軽く二次齲蝕を起こしていた。
まだ入れたばかりだから、今後トラブルがないとも限らないが、 正直、あまりの適合の良さに驚いている。
ふつう、金パラのインレーを入れると、舌で触ると少し縁がわかったりするものだ。 これは、金パラインレーの適合があまり良くないというのもあるが、 舌が非常に敏感な器官だからだ。だから、ベロチューは気持ちいいのだ。 実際、舌は第二の性器なども呼ばれる。しらんけど。
しかし、このジルコニアインレーは縁が全くわからない。 歯科医の腕もあっただろうが、光学印象とCADCAMの進化は恐ろしいと感じる。
あまりにすごいのでブログに書きたくなってきた。 どうしてジルコニアなのか、どういう基準で歯科医選びをしたのかなどを書きたいと思う。
なぜジルコニアなのか
おれは、金銀パラジウム合金という素材に対してかなり否定的だ。
パラジウムは高すぎる
この通称「金パラ」が保険治療に採用された理由は、当時は安価だったからだ。 安価なわりに、わりかし持ちがよく、加工がしやすいから採用された。 しかし現在においては、この組成のうちパラジウムは価格が暴騰しており、 単体ではすでに金よりも高くなっている。 今日の相場で1グラムあたり金が8703円、パラジウムは9630円とある。
おれとルシファーが中学受験をした伝説の1997年2月にはなんと600円だった。 今では10倍以上にもなっているのだ。
なぜこのようにパラジウムが暴騰したのか。 これは、パラジウムがスマホの中で使われるようにようになったからだ。 パラジウムは他にも、排ガスをクリーンにするための自動車触媒の中で使われている。 だから暴騰したのだ。 後者は確実に、グレタ・トゥーンベリとかいうふざけたクソガキのせいだろう。
このように、パラジウムは恐ろしく高い素材になったのだが、 未だに保険医療の範疇で行われているおかしな補綴素材なのだ。
これは当然、国の保険制度を圧迫する。 それだけではなく、実際には歯科も圧迫している。 なぜかというと、金パラの実際の材料費に対して保険によって支払われる公定価格が追いついていないからだ。 これを「逆ざや問題」というが、ようするに歯科は金パラを使えば使うほど損をする。
歯科が損をするだけで、患者には関係ないだろうと思うだろうが、おれはそうは思わない。 なぜかというと、歯科にとって損な素材だということになれば、 歯科はそれだけ経費を削ろうとするからだ。 真に新しい金属を「ヴァージンメタル」というのだが、 これを使わず中古の金属を溶解してから使ったり、 あるいは、治療自体も雑になることがあり得ると思う。 プロフェッショナルであれば本来あってはならないことだが、 歯科医も人間であり経営者なので、こういうことが起こっても責められるものではない。
以下の記事では、 保険治療の質が下がっていくという危惧について訴えている。
このように、金パラは限界を迎えていて、 金パラをどうにかしなければいけないという議論はされているのだが、 未だ改革は行われていない。
金パラは劣った素材だ
もし、金パラが最高の素材であれば、保険で使い続けることにも理がある。 しかしそうではないのだ。
金パラは二次齲蝕を起こしやすい。 これは、金パラは適合があまり良くないこと、 口内の環境によって劣化すること、 保険で使えるセメントの質が良くないこと などが理由として挙げられる。 実際におれの右下5番は二次齲蝕を起こしていた。
金パラは、金属アレルギーを起こすことがある。 金パラには、金、パラジウムがそれぞれ12%、20%の他、銀、銅などが含まれる。 このうち何かで金属アレルギーを起こすことがあるのだ。
また、口内に複数の金パラインレーが存在すると、ガルバニー電流が発生することがある。 この場合、金パラはイオン化し、劣化は加速する。 異なった歯科医で金パラを入れた場合、その組成が厳密には同じものではないため、 これが起こりやすいという話がある。
これはおれの私見になるが、 もし、保険の補綴素材として採用するならば 現在ならば金の方が良い。 金の方が金パラより補綴素材として優秀だからだ。 また、セメントや接着剤も良質なものを使い、 出来るだけ保ちが良くなるようにする方が国にとっても国民にとっても良い。 治療費は上がるだろうが、 何度も治療をやり直したり、歯を失ったりするよりは格段に良い。 金パラからいきなりジルコニアだとジャンプアップがあり、 機材などの関係で追従出来ない歯科医が廃業することになりかねないが、 金ならばそうはならない。 金の保険化は非常に現実的だと思う。
ジルコニアは神の素材だ
金属アレルギーの心配をしたくないという場合に、 今まで使われていた補綴素材はセラミックだった。 しかし、このセラミックには「割れやすい」という問題があった。
他にはコンポジットレジンという方法もあり、実のところこのコンポジットレジンも素材自体がかなり 研究され、高品質になってきているためちゃんと治療出来ればかなり保ちの良いものになるのだが、 歯科医の技術に強く依存するということと、 保険では点数が低すぎて丁寧な治療が出来ないという欠点がある。 そのため、コンポジットレジンについても自費治療を提供している歯科医院は存在する。
こうして、 白い歯のように美しく、 適合がよく、 そして割れにくい素材が探求されていった。
そのうち現在の最先端がジルコニアだ。 ジルコニアは人工ダイヤモンドと言われるほど硬く、 まず割れることはない。
ドラクエの世界いえばオリハルコンのような素材、 それがジルコニアだと言えるだろう。
歯科選びのポイント
ジルコニアの取り扱いは専門性が高い
しかし、ジルコニアは扱いが難しい。 なぜかというと、硬いからだ。 硬いということは加工が難しいということを意味する。 柔らかい金属ならば出来た加工技術が、ジルコニアには通用しないのだ。
硬いということはまた、対合歯を傷つける可能性があることも意味する。 これは、対合歯を割るということもそうだが、 表面の研磨が甘い場合に対合歯をヤスリのように削ってしまうことがある。
ジルコニアには他にも、色合いが難しい(透明度と硬さがトレードオフになる)、 土台の削り方が金属とは違うなど、 難しい点がたくさんある。
こういうことを考えた時、 おれは、ジルコニアは「ジルコニアはじめました」で取り扱うことは 難しい素材なのではないかと考えた。
ジルコニアそのものの専門家を探す
そこでおれは、 ジルコニア自体の専門家に治療をお願いしようと考えた。 具体的には、ジルコニア自体の研究をしていた歯科医を探した。
これはなぜかというと理由は2点ある。
提供出来る治療の質
理由の1点目は、単純に取り扱いそのものに慣れており、 正しい治療が出来ること。
この治療というのには器具を持っていることも含まれる。 ジルコニアインレーの作成はCADCAMによって行う。 そして、作成のためのデータは光学印象によって作られる。
一般に行われるガムを噛んで作る印象には大きな誤差がある。 これは、5%ほどと言われている。 一方で光学印象では、0.5%の誤差しかないと言われている。 このように、コンピュータによって精度の高い歯列データをとり、 それに完璧に合うインレーを高性能のCADCAMによって一発で作る。 これしかジルコニアインレーがうまく行く道はない。
当事者意識
理由の2点目は、当事者意識を持っている方が良いからだ。 ジルコニアの研究をしていたということは、 ジルコニアに対してプライドを持っているはずであり、 パーフェクトなジルコニアインレーを作ることに最善を尽くすはずだ。 例えば、入れたジルコニアがすぐに二次齲蝕を起こしたりすることは許せないはずだから、 細心の注意を払って治療に当たるはずである。
治療
カウンセリング
おれの口内には5つの金パラインレーがあるのだが、 おれの希望はこのすべてをジルコニアに変えることだった。 場所は、右下5、右上6,7、左上6,7だ。
連絡をとって、初日はカウンセリングだった。 レントゲンの他、口内の歯列をスキャンし、コンピュータに取り込んだ。
その結果、右下5番については二次齲蝕を起こしているため、 治療をすることにはかなり意味があるということだったが、 右上と左上の奥歯については、多少リスクがあるため、虫歯になっているようには見えないことからも、 様子を見るのもありという判断になった。
治療日
一週間ほど考えてから、 右下5番の治療について予約をとった。 治療はまず、金パラインレーを外すところから始まった。 しかしこれはなぜか、接着がガバっていて、こじったら浮いて取れてしまったようだ。
こうして金パラインレーを外したあと、 古いセメントを削り、齲蝕検知液(緑色だった)を使って齲蝕を削った。 治療の最中、都度治療部位の撮影がなされ、治療後に治療内容の説明を受けた。 こういった、証拠を元にしてきちんと説明を行う姿勢は、 多くの歯科医に見られないものであり、真新しいものだった。 一般的な外科手術では、術前に十分な説明がなされるが、 歯を削る場合にはそれがなされないことがある。これは非常におかしなことだ。
削ったあとは、新しいセメントを埋め、 仮蓋をして終了。
装着
そして今日、ジルコニアインレーを装着してきた。
装着はまず、仮蓋を外し、クリーンにしたあとジルコニアを装着した。 接着では、レジンで使う光重合の器具を使っていたから、 おそらくレジンセメントという接着素材を使ったものと思われる。
装着してすぐに、噛み合わせに問題がないことがわかり、 今日はさらに何枚か口内写真を撮影して終了となった。 一週間後にまた、噛み合わせのチェックを行う予定だ。
評価
治療費は55000円だった。 これは決して安くはないが、 結果に対しては満足しているため、 高いとも思わない。
おれは歯に関して、矯正、インプラント、ジルコニアインレーと いくらか自費治療をしてきたが、自費治療はどれも満足している。 お金があるならば、歯科の自費治療を選択するのは常に良いことだと思う。
他の歯についても、覚悟が決まれば ジルコニア化してみたいと考えている。
ジルコニアを保険化せよ
今回、ジルコニアインレーを入れてみて思ったことは、 ジルコニアによる補綴はすでに十分に実用的なレベルに達しているということだ。
ジルコニア治療の良いところは、その審美性や予後のみならず、 必要な器具を揃え、丁寧な治療を行えば再現性の高い治療が可能ということでもある。 なぜかというと、印象も加工もコンピュータによって行われるからだ。
もちろん、土台を加工するのは歯科医の仕事であり続けるし、 技工士の手も一切必要なくなるわけではない。 しかし、金パラや金のようなメタルインレーを使うよりは遥かに 人の手が関与しないことは事実だ。
またジルコニアは、材料費自体が金より安い。 さらに、金のように世界情勢によって上がったりすることもない。 自費治療は自由に値段を設定出来てしまうので一般にはいえないが、 ジルコニアインレーの方が金インレーよりは価格が安い傾向にある。
ジルコニアがどうあがいても金に勝てない点といえば、 金には伸展性があることだ。これはジルコニアはどうやっても獲得出来ない性質だろう。 しかし、一方でジルコニアは、セラミック一般の性質だが、歯垢がつきにくい。 つまり、適合が良いものが作れるならば、二次齲蝕のリスクはかなり低く出来る。
ジルコニアという素材は本当に素晴らしい。神の素材と言っても過言ではない。
出来れば、ジルコニアの保険化がされると良い。 光学印象や、高性能なコンピュータなどが必要となるからいくらかの投資は必要になるだろうが、 金パラによって持ち出しを続けている現状から考えれば、 歯科医としても投資は前向きに考えられるだろうし、 金パラをやめるのであれば国が補助金を出すことも出来る。
そうやって歯科のレベルを上げていくことが、 今後日本が世界と戦っていくためには必要だと考える。 なぜこう言えるかというと、 今現在、日本が海外の先進国に対して経済的に負けているのは、金パラのせいだとおれは考えているからだ。