ノアライルズがローザンヌで19.50とかいうやばい記録を出したようなので、今日も神の目線で語っていく。人類トップレベルのアスリートたちの活躍をさらに高みから論じることほど楽しいことはない。
www.youtube.com日本選手権でサニブラウンが短距離を圧勝して、ストライドが2メートル51あるとか、見ているステージが違うとか、やたらと持ち上げられているのだが、2019年の世界陸上ではサニブラウンのメダルは現状では絶望的で、100mと200mのどちらも決勝に出られない可能性もたぶんにある。サニブラウンは日本選手権のインタビューで「世界には化物がたくさんいる」と言っているが、本人も決勝に残れるかどうかぎりぎりのラインだという自覚があるのだと思う。
サニブラウンが強く見えるのは、日本の他の選手が圧倒的に弱いからだ。日本がトレーニング理論の遅れにより10秒、20秒の壁を破れないでいる間、世界は9.8や19.7あたりがふつうになってしまった。日本が弱いのは遺伝子が悪いせいというのもあるとは思うけど、一番大きいのはトレーニング理論だ。なぜトレーニング理論が差をつけたかというと、アメリカでは大学生のうちから過去でいうとオリンピックで余裕で優勝レベルの記録をバンバン出しているからだ。もし遺伝子が最大のファクターなのであれば、こんなことは起こらない。トレーニング理論の遅れが最大のファクターであり、山縣や桐生は本来ならば今頃蘇炳添と同じくらいのタイムでは走れたはずなのだ。
言ってしまうと、日本の短距離選手はかけっこをしていて、アメリカの短距離選手はスプリント競技をしているくらいの違いがある。末續が当時世界トップレベルの強さを持つことが出来たのは、彼の走り自体が当時最先端の効率を持っていたからにほかならない。
アメリカに渡ってしまうと、サニブラウンは「ユース選手権でウサインボルトの記録を破って2冠した有望株ではあるけど、まだ9秒をちょっと切ったくらいの選手」という評価でしかない。だから、大きな怪我をすればただの人に成り下がってしまうし、このまま記録が停滞しても「日本とかいうクソぬるい国のレコードホルダーだけど、今はふつうに早めの選手。大学卒業以降は望みなし」でしかなくなってしまう。これがサニブラウンにとって心地よいストレスとして刺激になってるというのは疑いようがないが、また、居心地のよさにもつながってるのではないかと思う。
日本にいるととかく、他の日本選手と比較される。特にそれが体格や筋肉の発達に関するものである場合これは、「彼は黒人とのハーフだ」ということを暗に示唆されているのに等しい。これがサニブラウンにとっては大変心苦しいものだと思う。実際に彼は2017年の段階ではヒョロガリとまでは行かないが、明らかに細かった。しかしそれでもユースの時よりは遥かにバルクアップして走りに強さが増していた。そしてアメリカに渡って2年、さらにバルクアップしてきた。サニブラウンはスプリンターだから、ふつうの人よりは筋肉は付きやすいかも知れない。しかし、もともとそこまで太くなかったことを考えると、筋肉の点ではそこまで恵まれた才能がないとも言える。バルクアップの裏には、猛烈な努力がある。「彼は黒人とのハーフだから速い」で片付けられてしまうと彼自身の努力が否定されてしまうから、日本は居心地が悪い。サニブラウンがウサイン・ボルトを超えるためには、ウサイン・ボルト以上の筋肉をつけるしかないから、これから先もバルクアップをしていかないといけないことになる。筋肉は増やせば増やすほど増えにくくなるから、ここからは血のにじむような努力をして一年に1キロずつ増やしていくという努力が必要になる。遺伝子の一言で片付けられては、たまったものではない。そこまで努力している短距離選手は、日本にはいないというのに。おれは彼の身体を見れば、いかに努力をしているかがわかる。一方で桐生は努力が足りない。
アメリカにいると、この前のNCAAで勝ったのはナイジェリア出身かなんかだったし、ハーフなんかも死ぬほどいる。例えばマイケルノーマンもアメリカ人と日本人のハーフだ。その中では才能はイーブンとみなされるから、純粋に努力と結果だけを見られることになる。これはサニブラウンにとって大変心地よいものに違いない。彼のインタビューの中で、彼の視点が一切国内に向いていないということに違和感を感じた人もいるだろうし、生意気だと憤りを感じた人もいるだろうけど、それは、彼がいかにアメリカで心地よい陸上選手生活を送っているかということでもある。語られることはないが、他のハーフの人が高い割合でそうであるように、おそらく大学以前の学校生活などの中でも、差別やいじめというものを感じたことがあるのではないか。
アメリカには、100mならクリスチャンコールマンやガトリンもいるし、サニと同じ学生の中にもサニより速い学生が5人どころではないくらいうじゃうじゃいる。もしかしたら10人くらいいるかも知れない。世界全体でいうと、サニは準決勝には残れるだろうが、決勝は相当運が良くなければ無理というレベルではないかと思う。200mも同様。個人的には現状では100mを捨てて200mに専念する方が、決勝とメダルを狙うチャンスはあるのではないかと思う。もし決勝に出れたらそれは全く当然ではないし、メディアも「当然だ」という論調ではなくきちんと「快挙」という形で扱ってほしい。