「若者はなぜ3年で辞めるのか」「辞めた若者はどうなったのか」。今まで、城氏の本を2冊読んできました。これらはどれも、日本企業という歪んだ制度の中で若者がどう搾取され、そしてそれに対してどのような考えを持ったのかが書かれています。後者については「ではこれから日本企業はどうすればいいのか」ということが書かれていることについてもこの前紹介しました。
この本は、城氏の処女作(2004年)です。東大法学部を卒業後、自らの能力に自信のあった彼は、実力の世界で生きていくために(というか富士通に採用されたからだと思いますが、ストーリー上そう書いてある)、成果主義をアピールしていた富士通に入社しました。しかし、彼はその内情に絶望して辞めました。この本は退職直後に書かれた暴露本と言ってよいでしょう。人事部という、人事評価基準を設定する部署の中から見た、富士通における成果主義のリアルな腐敗とその要因が書かれています。ざっくりですが、
- 富士通という日本企業には成果主義は合わなかった
- 目標設定なんかほとんどの職種では無意味だけでなく害悪なのでやめろ
- 中間管理職の評価はオープンにしろ
と言ったことが書かれています。年功序列が成り立たないことは当然として、成果主義を採り入れるにしても、富士通のように上っ面だけで採り入れると腐敗を招く、正しい形で採り入れるべきだという主張です。正しい例としては、リクルート、日興コーディアルなどが挙げられています。富士通の目標評価において、実は部署ごとにABC評価のパイが決まっていたとか、実は賃金を下げるための方便であって、実態としては年功序列が続いていたとか、腐敗を招いた主要なメカニズムが紹介されています。どの理屈も納得出来るものであり、特に日本の大企業の多くにはこの腐敗が共通しているのではないかと思いました。正直にいうと、私自身も、半期に一回行われる目標設定と達成評価には、そのあり方に疑問を感じている一人です。弊社の成果主義のあり方はまさしく富士通のそれと同じであり、疑問に対していくらかは解が得られたような気がしました。ただし同時に、ここまでの腐敗を知ってしまうと、日本企業で働く当事者としては気分が落ち込んできました。
本作から気になったところをピックアップして紹介します。
5章に「なぜ社食は高い上にまずいのか」ということが書かれています。社食が高い上にまずいというのは私も非常に共感するところです。富士通におけるからくりは、富士通リフレという富士通の子会社が人事部の系列であり、よもやその子会社を人事の人間が批判することなどは出来ないので、まずい飯を提供して暴利を貪る経営法から改善しないということです。
5章に「成果主義の誤った導入の結果、優秀な人間から会社を辞めていき、残っているのは入社時にB評価だった人間ばかりだと分かった」ということが書かれています。成果主義の腐敗により、富士通からは人間が離れていきました。その現状を改善するために下った指令は「採用が悪い。現在残っている人間をモデルとして採用をすれば、長く会社にいる人間を採用出来る!」でした。調査の結果、現在残っているのは入社時にB評価だった人間ばかりであり、1998年以降に限ると、入社時評価の上位1割が5年以内に退職していたということでした。これがどのくらいインパクトがある数値かは明らかです。優秀な人間が辞めた事例は私の職場にもあります。ぱっと思い浮かぶのは二人。一人はだいぶ昔に退職されてベンチャーに移り、生粋の技術屋として活躍されています。もう一人も生粋の開発者であり、最近では個人名でニュースに取り上げられるような活躍を見せています。辞めてしまった人が活躍されている姿を見ると、なぜ、彼らを引き止められる職場に出来なかったのだろうかと残念に思います。他企業では、東芝を引退した竹内氏が有名です。彼の著書「世界で勝負する仕事術」は読みましたが、やはり、職場での日本企業らしさ(年功序列、村社会)と言ったものへの批判が書かれており、最近はTwitterでも活躍をされております。
6章に「なぜ人は働くのか。それは金ではない。未来のためだ」と書いてあります。私はこの意見に同意します。デシの実験として実証されていることですので、「働くのは金のためではない」論には今更感がありますが、富士通という巨大な企業において会社を辞めていく人間たちが何を思っていたのか、そこに共通の動機があるとすれば、未来の喪失を感じたからでしょう。実際、退職した人のほとんどは年収が下がったということです。最近、日本の電機業界は暗いニュースばかりです。パナソニックやシャープ、NEC、富士通、スクエニ、ソニーまでもが傾いています。ルネサスはまだリストラ続けるということです。実は私は、この状況が楽しいと思っています。日本企業の誤った仕組みが変わるためには強烈な刺激が必要です。どうなるか分かりません。日本人は帰属意識が高く、また、性格もおとなしいため、優秀な技術者の流出が止まりません!ということにはならないかも分かりませんが、なったとしたらどうなるか、また逆にならないとしても日本はどうなるのか、日本という社会の変革はたぶん他国からも注目されているのではないでしょうかと思います(経済的にはもはや注目に値しない国だと思いますが)。私もまた、他人ごとのように注目しています。
城氏の本を三冊読んできました。どれだけ面白い本でも、数を読めば内容もいくらかは重複しており、次第に飽きてくるものです。城氏の本はこれで打ち止めにしようと思っています。城氏の本は富士通という日本の大企業での経験を元にして書かれているため、本文中にも度々書かれているように、多くの内容は他の日本企業でも共通するものと思います。上にも書きましたが、日本は現在とても面白い状態にあります。例えば、旅行に行くにしても、その土地の歴史や文化、有名な観光地などをチェックしていった方が楽しめる場合が多いと思います(何の知識もなくぶらりと出かける旅もまた面白いのですが)。日本企業に勤める当事者、これは年配も若手も、研究開発も営業も関係なく、一度は読んで損はない本たちではあるなと思います。オススメです。