ベン・ジョンソンがアナボリック・ステロイドを使って9.79で走ったのが1988年の大昔で、それからは誰も9.8を切れない時代が続いた。しかし最近になりジャマイカの選手がウサインボルトの圧倒的な9.58を筆頭に9.8以下で走り始め、アメリカ勢もタイソンゲイが9.69、ジャスティン・ガトリンが9.74と健闘している。トレイボンブロメルなど、20歳の選手が9.84で走る時代にもなった。日本の桐生も追い風参考ながら9.87で走っている。一体何が起こったのか。
オリンピックの100m動画を見てみると分かる。
- 1988年ソウル: YouTube
- 1996年アトランタ: YouTube
- 2000年シドニー: シドニーオリンピック 陸上男子 100m決勝 - YouTube
シドニーから明らかに、100mの走り方が変わっている。特にソウルでは明らかだが、選手はスタートしたらすぐに身体を起こす。しかしシドニーでは特にモーリス・グリーンに顕著だが、しばらくは前傾姿勢を保つ。そして、後半のために力を温存する。それが100mを最速で走る技術として確立された。
それが2012年ロンドンでも標準的な走りとされ、ウサインボルトのような長身の選手も採用している。 Usain Bolt Wins Olympic 100m Gold | London 2012 Olympic Games - YouTube 動画ではジャスティン・ガトリンが顕著である。
つまり、トレーニングやトラックや靴の向上ももちろんあるだろうが、技術的にいうと2000年を境に100mの走り方が代わったことが明らかであり、これも、100mの記録向上に大きく貢献したことは間違いない。
この技術だが、アメリカのハドソンスミスインターナショナル(HSI)で開発されたものである。 0-20をドライブフェイズ、20-40をトランジションと呼び、100mを3つの区間で構成することにした。HSIの最高傑作はモーリス・グリーンであり、その今のトップ選手は全員がHSIの理論をベースにして100mを走っている。この意味では、現在の100mに対するHSIと、その理論を使って実証したモーリス・グリーンの貢献は計り知れない。 100m−ジョン・スミスの理論
調べてみると、日本の山縣がHSIに留学するというニュースが出てきた。これはどうなったのだろうか。 【日本スプリントの挑戦】(23)より速くなるために 山県亮太は米国行きを決めた(1/9ページ) - 産経ニュース 残念ながら私は山縣に選手としては期待していないが、コーチとしては期待している。彼は理論立てて100mを走ることを日本人の中ではもっとも意識していると思う。考えてほしい。100mで日本人が遅いのは遺伝子が悪いからだろうか?ジャマイカの選手に勝てないのはそのとおりだと思う。しかし、伊東浩司が日本記録の10.00を出したのが1998年である。しかしそれから20年近く経っても誰もこの記録を(公式には)抜けないのだ。海外の選手はそれから平均して0.1程度は記録を伸ばしているが、まだ日本人は夢の10秒だとか言ってるのだ。常識的に考えれば、夢の9.7台となってなければおかしい。背景には、トレーニング理論などの遅れもあるだろうから、海外の名門でこれらをしっかり学んで、日本に還元してほしい。ハーフの選手もぽつぽつ出始めているから、日本人が9.8を切ることも全く夢ではない。
夏にはリオ五輪がある。こういう話も知っておくと短距離をより楽しんで観戦出来るだろう。チャオ