島津くんのことを書くことはあまりに辛いことなのだが、書くしかない。
島津くんは、物語開始時点では塾内のトップ。 志望校は開成中学。
彼はある時、上杉くんという生徒に対して 「偏差値50の学校なんか目指してゴミだな」 と悪態をついてしまい取っ組み合いの喧嘩となる。
しかしそれは、父親による虐待に影響されたものだった。
中学受験をする家庭の父親が (おれのように)中学受験経験者だったり、 大学受験エリートだったりして、 子供の中学受験に深く干渉しようとして潰すということはよくある話のようだ。 そしてその場合、落ちたら母親の遺伝子や育て方が悪いということになるため、 母親はプレッシャーを感じながら中学受験をすることとなる。 場合によっては父方の家系からもプレッシャーをかけられることもある。 こういった理由で、中学受験をきっかけに離婚する家庭も珍しくはない。
島津くんの父親はクズで、こういう人間である。
島津くんが上杉くんに同じことを言ってしまったのは、 父親のいうことを否定しながら生活することが出来なかったからだと理解出来る。 父親に対して精神的な奴隷となることで、自分のことを守っていたのだ。
しかし、その環境に耐えきれなくなった島津くんはついに家出してしまう。 母親は、島津くんが家出する理由を知っているから、 島津くんを見つけた時、おもわず「辛いならもう中学受験をやめてもいい」 と言ってしまうのだが、 島津くんは泣きながら
と抵抗し、母親のために中学受験を続けることを決意するのであった。 (この点がまるみとは対照的に描かれている。まるみは自分のために受験をしているが、 島津くんは他人のためなのだ。黒木はこの点を危惧して「島津くんは落ちるかも知れない」 とほのめかしている)
あまりに健気なことであるが、 中学受験ではこの優しさが無価値なのだ。
家出をして塾をサボったことがバレると、 父親は母親に暴力を振るう。 「偏差値50の学校なんか存在意義あんのか!?ゴミだろゴミ!!お前は順をゴミ溜めに行かせることになってもいいのか!?」
その様子に耐えられず、島津くんは自分の部屋に逃げ、布団の中で震えながら泣くのである。
こうして、島津くんは 母親を父親から守るために開成中学に合格するしかなくなるのだが、 その思いとは裏腹に成績は下がっていく。 そしてついに、塾内トップから陥落し、開成合格からは大きくかけ離れてしまう。 当然、父親の虐待も激化していくわけである。
この漫画の中では、ある校舎が御三家クラスの実績を出せるかどうかは そういう子供がたまたま入ってくるかどうかの「運」の問題である。 ということが述べられている。 島津くんは、 すでに開成に手が届くところまで来てるのだから 知能的な面では才能があることが間違いないのだが、 親の運に恵まれなかった。残念なことである。
中学受験には、知能と親、両方の運が必要であることを島津くんの例から学ぶことが出来るわけである。
今後だが、中学受験をリアルに描きたいのであれば、もうここまで描いてしまったのだから当然、 「離婚」か「自殺」になるしかない。 もし島津くんが自殺したら、二月の勝者は伝説の漫画になると思う。掲載雑誌的にはいけるはず。