エンプティノーズ症候群 では、エンプティノーズ症候群(ENS)という病気を紹介した。
ENSは自殺思慮を起こすほど精神を蝕み、患者の人生を破壊する。 おれが高校生の時に下鼻甲介を全切除したことによりENSになり、 それ以来を病気に苦しめられ続けてきた。 ENSにならなければ簡単に東大に行けていただろうし、 今とは全く違った人生になっただろう。 頭脳的にも身体的にも、能力を制限されない人生を送ってみたかった。 特に、囲碁を全力で出来なかったことが悔やまれる。
ENSを治し、おれも全力で囲碁を打ちたい。 自分の限界まで挑戦し、それでもだめならば自分が馬鹿なのだとして諦めがつくが、 今の時点ではまだ諦められない。 労働から解放され、囲碁に没頭する。 おれはこの人生にしか興味がない。
何ごとも、その原理を知ることは大切なことだ。 そこで今回はENSがなぜ起こるかについて説明したい。 ENSに悩まされる患者は少なくなく、 彼らの中にはENSからくる苦しさを訴える発信をしている者はいる。 しかし、ENSの原理については言及している者はいない。
ENSの症状のうち鼻閉については、 それがなぜ起こるのか長い間謎とされてきた。 なぜ下鼻甲介を切除することで鼻閉が起こるのだろうか? 素直に考えれば、空気の通り道を広くしているのだから 息がより吸えるようになると考えるのが自然だ。
キーとなるのはTRPというタンパク質だ。
TRPは温度や化学的刺激を感じとるセンサーであり、 この発見に対して2021年にノーベル生理学・医学賞が授与された。 発見自体は1997年のことだ。
このうち、TRPM8というセンサーがENSに関係する。 TRMP8は寒さを感じるセンサーであり、鼻腔にも存在することが2015年に確認された。
Identification of the cold receptor TRPM8 in the nasal mucosa
問題は、TRPM8が活性化するためには、温度が低くなければいけないということである。 その温度は23-26度と言われる。
鼻腔の中に十分な下鼻甲介が残っており、 その狭い隙間を空気が抜ける時、その空気の速度は速く、冷却効果を持つ。 ちょうど、唇をすぼめて吐いた息を手に当てると、冷たく感じるのと同じことだ。 従って、まともな鼻腔形態を持つ人間においては、 鼻腔の中が適切に冷却され、それによってTRPM8が活性化され、 それによって「空気が通っている」という感覚を得ることが出来る。 一方で、鼻腔内を大きく欠損したENS患者の場合、この冷却効果が得られないことになり、 それによって空気が通ってる感覚が欠乏することになる。
こういう原理によって、ENS患者は、 物理的に空気が通ってるにも関わらず、 空気が通ってるという感覚を得られない。 その感覚の欠乏は、過剰な吸気に繋がり、 息苦しさにつながる。 ENS患者の中には、窒息感に悩まされる者も少なくない。 呼吸がおかしくなることは自律神経を破壊し、精神を破壊する。 精神を落ち着かせる方法として呼吸法があるのだから、 呼吸が壊れれば精神が破壊されることは理解出来るだろう。
従って、ENSに対する有力な治療法としては、 鼻腔に対して何らかの移植を行い、空気の通り道を狭めてあげることが考えられる。 こうすることで少なくとも、TRPM8が活性化されないために起こる問題については 緩和することが出来る。
今後、ENSの治療は少しずつ進歩・普及していくかも知れないが、 より大事なことは初期の治療において下鼻甲介の過剰な切除を行わないことだ。 今現在でも下鼻甲介の切除自体は行われているが、 ENSを起こさないためにその減量は50%までに留めるべきと言われている。 しかし現実として、知識のアップデートを行わないままに手術を行い、 ENSを引き起こしてしまう医者が未だに存在する。 こういった舐め腐った医者によって人生を破壊されないよう、 患者側としても知識を持つことは大切なことだ。
それが、おれが自身の病気について公開し、 その原理についても解説しようとする理由である。