金魚釣りはやめろ

最近、おぞましい遊びを知った。金魚釣りという。

堀の中で泳いでいる飼いならされた金魚を、ゴミみたいな餌で釣って楽しむという遊びらしいのだが、吐き気がする。

現実社会には、金魚がたくさんいる。

金魚は、金魚に生まれたかったわけではない。きれいな鯉に生まれて、豪邸の庭にある池の中を優雅に泳いで、死んだ時にはちゃんと埋葬される人生を望んでいたはずだが、願い叶わず金魚になり、生きるためにゴミみたいな餌を期待して堀の中を泳いでいる。

現実社会も同じだ。本当はもっとお金持ちの家に生まれたかった。もっと教育を受けたかった。そしたらもっといい大学に行って、きっと今とは違う暮らしをしていたに違いない。堀の中から逃げ出すことは出来ず、安っぽい餌を口をぱくぱくしながら待つだけの日々。

近鉄の駅員が線路に逃げ出したというニュースがあった。どうか罰しないでほしい。これが罰せられたらこの世界は終わりだ。あの人だって、近鉄の駅員になりたくてなったわけじゃないはずだ。毎日毎日酔っぱらいや民度の低い「お客様」に絡まれて、そりゃ嫌にだってなる。だけど駅員を辞めるわけにはいかない。他に行くところがないからだ。そこで必死に生きていくしかない。きっと、養わないといけない家族だっている。

昔、笑う犬というお笑い番組でテリードリーというコントがあって、お兄ちゃんのドリーが「毎日毎日同じことの繰り返しで生きてる気がしないんだよ!」という下りから始まるのだが、駅員だって同じ。毎日毎日ゴミみたいなお客様の相手をしなきゃいけなくて、うんざりしてる。もう嫌だ死にたいと言ったという。

逃げることが出来ない人をひたすら虐めるのはやめよう。昨今問題となっている下請けいじめもそうだ。下請けの人だって、好きでその仕事をしているわけじゃあない。かといってスキルはないから現状から這い出ることも出来ない。ほとんどの人がそうだ。最近ではスーパーやコンビニの店員に土下座させる客まで出てきているという。ブラック企業と呼ばれるところでは、社員が鬱になって自殺することだってある。みんな、金魚なんだ。

金魚釣りは、この世界の縮図だ。

金魚釣りに行く人は、現実社会では金魚をしているから、せめて休日くらいは、金魚を釣る側になってみたいと考えて金魚釣りに行くのだと思う。私は、その気持ち自体は別に悪いものだとは思わないが、自分はそうはなりたくないと思う。苦しい現状を受け入れて必死に生きている人を虐める連鎖に関わってしまったら、人として終わりだ。

もう「お客様は神様」はやめよう。

最近、こんな記事を読んだ。

「お前は客じゃない!」外資系企業の支配人がクレーマーを一喝 「お客様は神様」ではスタッフを守れない

この外国人上司にとって客の定義とは、客として正しく振る舞う人だけであり、それ以外は客とはみなさないということだ。一方で日本人にとって客の定義は、そのサービスを利用する人すべてだから近鉄駅員のようなおかしなことが起こるのだ。日本社会というのは、サービスを提供する側はなんでもやるということが要求されるおかしな社会だ。それは、ジョブディスクリプションが存在しない雇用文化にも表れている。雇用される側は常に、何でもやることを求められる。「それはおれの仕事じゃない」は許されない社会だ。だから、酔っぱらいのサンドバックになることも仕事だし、ちんぽを舐めろと言われたら舐めるしかない。

みんなが今から一秒後に一斉に外国型のサービス精神に切り替えれば、日本社会は一気に浄化される。

スカイマークは、日本企業の中ではいち早く、外国型のサービス精神に切り替えた企業だ。スカイマークのサービスコンセプトが言っていることは「私たちは、客がまともであることを前提として、安全なフライトを提供する」ということだ。だから、キチガイは外に放り出すと書いてあるし、安全なフライトに必要のない制服だとか上品な言葉遣いはやめると言っている。客の中で赤ちゃんが泣きわめいて迷惑をかけても、そんなことは知らんと言っている。

スカイマーク・サービスコンセプト〜無神経とも思える傲慢な文章表現は、おそらくしたたかに計算されたもの

それでいい。そうすることによって、客の質は上がる。そして、それが結果として、全員にとってフライトを快適にするのだ。だから、ここからここまでしかしませんと明確にすることは、実はサービスを受ける側にもメリットがあることなのだ。実際私はスカイマークのそのドライさが好きだ。イギリスに行った時にヒースローからエジンバラまで国内線に乗ったが、フライトアテンダントは服がズボンからはみ出ていた。服なんか関係ないからだ。離陸時に衝撃で荷物入れが開いてしまったのだが、その時も飛行機が安定するまではそれを閉めには行かなかった。荷物入れをちゃんと閉めなかったのは客の責任であり、離陸時に立つことは自分の身の安全を脅かすからだ。彼らは楽しそうにフライトアテンダントをしていた。

人の能力に差があることはしょうがないことだが、みんなが自分の仕事に誇りを持って楽しんで働ける社会になればいいなと思う。

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