アガサ・クリスティの「ねじれた家」を読んだ。
英語名はCrooked Houseである。Crookedという単語はあまり見ることがないが、 有名な作品ではハリーポッターのダンブルドアの鼻はCrooked Noseと形容されている。 私はそれ以外では見たことがない。
まぁそれはどうでもいい。
アガサ・クリスティの作品にはどれも、何かしらの驚きがある。
例えば、ポワロシリーズのアクロイド殺しでは、ずっと近くで事件を追っていたはずの、 その手記を書いている当本人であるはずの シェパード医師が犯人ということで驚いた。まぁこれは批判もあったようだが。
今回読んだ「ねじれた家」にも最終的には驚きがある。
そしてあらかじめ言っておくが、私は読み終わったあとでもまだ、 物語が用意したジョセフィンが犯人ではなく、 ソフィアが真犯人だと思い続けている。 この理由については最後に述べる。
あらすじ
物語はエジプトから始まる
物語はエジプトで二人の若き恋人が食事をするシーンから始まる。 男の名前はチャールズ、女の名前は麗しきソフィアである。 チャールズは外交官であり、ソフィアはその出先機関の役人であり、 彼らはエジプトで知り合った。 ソフィアは容姿端麗、頭脳明晰な美人であり、 チャールズはソフィアと結婚をしたいと考えていた。 ソフィアも、そう考えていた。
ところで、このねじれた家は映画化されているが、女優は
こんな感じで、ほぼイメージどおりであった。 THE美人キャリアウーマンというかんじだ。
ソフィアという名前は、後述するように祖父のアリスタイドがギリシャ人ということもあって、 それ由来だと思っていた(隣ブルガリアの首都はソフィアである)が、 調べると2015年のイギリスで子供の名前人気ランキング2位らしい。 フィンランドでも2位。 イタリアでは1位。 その亜種であるゾフィアでよければ他の国でも上位に入る。 ヨーロッパにはどこにでもソフィアがいることになる。 ちなみにハンガリーの一位は安定のハンナ。強い。
ソフィアがイギリスに帰国することになった。
当時は戦時中であった。 そこでチャールズは考える。もしここで結婚したとしても、 もし自分がイギリスに帰る前に死んだらソフィアはどうするのだ? 第一、帰れる保証もないのだ。 イギリスに帰ってから求婚しよう。
そうソフィアにも告げて、ふたりは一旦別れることになる。
ソフィアの祖父、アリスタイドが毒殺される
エジプトでの任期を終えて、チャールズはイギリスに戻った。
そして、ソフィアと再会し、予定通り求婚する。しかし、ソフィアの返事は意外なものであった。
「あたしね、チャールズ、あなたと結婚出来ないかもしれないの」
焦って理由を問い詰めるチャールズに対してソフィアは、祖父アリスタイドが死亡し、 その原因が殺害ではないかという。この一件が明らかになるまではチャールズとは結婚出来ないというのだ。
そして、警視副総監を父に持つチャールズは、事件解決のために タヴァナー警部に帯同し、捜査にのめりこんでいくのであった。
検死の結果、アリスタイドは糖尿病のためのインシュリン注射の中に目薬 を混ぜられて死亡したことが明らかになった。
家族関係
ソフィアの祖父アリスタイドは大富豪であり、 彼が建てた大きな(建築的な意味で)ねじれた家に 大家族が住んでいる。 もちろんこのねじれたという言葉は、その家族関係についても言及している。 どろっどろなのだ。
登場人物を紹介したい。
- アリスタイドレオニデス:ギリシャ出身の大富豪
- ブレンダ:アリスタイドの後妻。若い。金目当てで結婚したと思われている
- エディスデハヴィランド:アリスタイドの前妻の姉かなんかで居候
- ロジャー:アリスタイドの長男。アリスタイドのビジネスを引き継ぐが破産寸前。野蛮な男
- クレメンシイ:ロジャーの妻。博士号を持ち放射線治療か何かについて研究してる才女。野蛮なロジャーを愛してる
- チャールズ:アリスタイドの次男。くだらない小説を書いてるだけの上級国民ニート。アリスタイドがロジャーにだけビジネスを任せたことを良く思っていない
- マグダ:女優。しかし金持ちなのでハングリー精神がなく鳴かず飛ばず
- ソフィア:長女
- ユースティス:長男。小児麻痺にかかった。性格が歪んでいる
- ジョセフィン:次女。探偵小説が好きな才能あふれる少女
- ローレンス:ユースティスとジョセフィンの家庭教師
ブレンダが疑われる
ブレンダは、他の家族から金目当てで結婚したと思われているため、 当然のごとく疑われることとなる。 しかも、ローレンスと恋愛関係にあるという疑惑もあり、 この二人が共謀してアリスタイドを殺したのではないかという線で調査が進められ、どんどん色は濃くなっていく。 読者としては、アガサ・クリスティの小説はさすがにそう単純ではないだろと思いつつも、 なぜかこの路線で物語は300ページも進んでいく。
あれ、まじでブレンダとローレンスが犯人!?ついに駄作を引いてしまったか!?
と、読者はアガサ・クリスティに騙されるのである。
名探偵ジョセフィンはすべてを知っている
この物語の鍵を握るのはジョセフィンである。 ジョセフィンは探偵ごっこが好きなので、家庭内の色々な話を見聞きし、 彼女の探偵ノートにメモ書きしている。
彼女がチャールズにいう。
「私、なんでも知ってるわ」
しかしチャールズが、犯人は誰かと聞いてもジョセフィンは答えようとしない。 無邪気な子供探偵はてきとうなことを言って、煙に巻いてしまうのである。
このなんでも知ってる少女は小説の中で、犯人から二度命を狙われる。 証拠抹殺のために殺されかけるのだ。
ブレンダとローレンスが逮捕される
小説の8割が何の起伏もなく、ひどく平坦な様子で進んでいき、 残り100ページを切ったところで、 ブレンダとローレンスのラブレターが発見される。 そこには、「これでやっと一緒になれる」など、アリスタイドを毒殺した とも読み取れる一節があり、それが決め手になり、ブレンダとローレンスは逮捕される。
犯人は他にいる
しかし、ブレンダとローレンスが逮捕されたあとにも、 ねじれた家の中で殺人が起きてしまう。 使用人のばあやが殺されたのだ。 ジョセフィンに出されたココアをジョセフィンが残し、 それをばあやが飲んだところ、毒物が入っていたのだ。 つまり、事件はまだ解決していなかった。
一体、真犯人は誰なのか? 残りのたった50ページで、すべてが一気に明らかになる。
犯人は小さな悪魔だった
物語は、エディスがジョセフィンをドライブに連れていき、 車の衝突事故を起こし自殺するところで幕を閉じる。
エディスは、ジョセフィンの探偵ノートを見つけていた。
チャールズたちがそれを開くと、すべてが明らかになる。
「今日、おじいさまを殺した」
「おじいさまが、あたしにバレーを許してくれないので殺すことにした」
「ばあやは嫌い。殺せばまた警察が来て面白くなるわ」
アリスタイドを殺したのは、ジョセフィンという小さな悪魔であった。 ジョセフィンが二度殺されかけたのも、ジョセフィンの自演で、 ばあやを殺したのも事故ではなくジョセフィンの意思であった。
エディスはもともとジョセフィンが殺人犯であるという目星を立てていた。 ノートを見つけることによってそれが確信に変わったエディスは、 自分の命がもう生先長くないことを知った上で、 すべての罪は自分が負うと書き残し、ジョセフィンとともに心中したのであった。
本当に犯人はジョセフィンなのか?
小説の終わり方としては、犯人はジョセフィンということになった。 しかし300ページも騙されてきて、いきなり犯人はジョセフィンですと言われても はいそうですかとはならない。
私は、小説の始まりからずっと、そして今も、ソフィアが真犯人ではないかと思っている。 ソフィアがアリスタイドの遺産を受け継ぐことになっていたこと、 ソフィアが家族の中でもっとも頭がよいこと、 ソフィアは自身が正しいと思ったことには感情なしに実行移せることなどが根拠である。 ジョセフィンのノートを見た時に涙を流すのも、ソフィアにとっては簡単なことであろう。
アリスタイドの孫の中で、 自分を除くとジョセフィンはもっとも頭が良かった。 このまま成長すると、自分を脅かす存在になりかねない。 だから、この機会に葬ってしまい、アリスタイドの遺産をいただいた上で チャールズを結婚し、幸せに暮らす。
このために、ソフィアがジョセフィンをなんらかの方法によって 誘導し、殺人に仕向けたのではないかと思っているのだ。