「中学受験は過激になっている」と言われることがある。 中学受験は課金ゲーだと言われることがあったり、 SAPIXに通うためにマンションと車を手放した人の話もあった。
しかしおれは、中学受験はそういった意味で過激にはなっているかもしれないが、 特に最難関層では昔より簡単になってるのではないかという考えを持っている。
最難関層では、Genetically Gifted(遺伝的に恵まれている)であることが特に有利になる。 これはつまり知能指数が高いとか、そういったことだ。 御三家に受かるか受からないかは小4の時点でわかると言われている。 これは、理解力・速さ・集中力が凡人の域を脱していないと、そういった高みにはまず届かないからだ。
最難関中学が簡単になっている理由
仮の話として、最難関中学と言われる学校群に入るために必要なある知能ラインがあり、それをXとする。
そして、2つの事実について考える。
1つ目は、小6の人口は減っているという事実だ。 おれが中学受験をした1997年に中学受験をしたのは1984年生まれの子供たちで 出生人口は1489780人。 今年2022年に中学受験をしたのは2009年生まれの子供たちで、 出生人口は1070036人。 その比は約1.4倍。逆数は約0.7倍。
知能指数は正規分布することが知られている。 従って、グラフ自体は等倍でシュリンクし、X以上の知能を持った子供は0.7倍になっているはずである。 これだけでも、関東でいえば、筑駒開成麻布とすべての学校で募集人数を0.7倍にしなければ遺伝的難易度が釣り合わないことがわかる。
2つ目は、 最難関校の選択肢が増えているという事実だ。 例えば神奈川の事情をいえば、おれの時代は神奈川なら栄光一択であったものが、 今では聖光も有力な選択肢の一つになっているし、 東京ならば、シブヤ系の共学や、都立一貫校も選択肢になってきた。 事実、今では渋幕に合格した場合、開成や麻布より渋幕を選択するという家庭も珍しくないらしい。 女子の場合でも、桜蔭は絶対的な選択肢ではなく、渋幕を選ぶこともあるし、豊島岡に蹴られることもある。 25年前では「絶対に」ありえなかったことだ。 こういった背景から、受験者は25年前より散ることになる。 つまり、1つ目の事実に加えて、最難関校はさらに簡単になってるということが出来る。
中学受験が過激になっている理由
最難関の中学受験は遺伝的に簡単になっているとして、 ではなぜ中学受験は過激になっているのかと考えると、理由は2つある。
問題難易度のインフレ
1つ目は、問題難易度のインフレである。 スポーツの世界で技術やトレーニング理論が進化するように、 中学受験の世界でも、問題の解放や学習法は進化する。 だから、おれの知る限りにおいて、もともとカンスト気味だった最難関中学の問題が 極端に難しくなったということはないが、特に中間層に関しては明らかな問題の難化がある。 問題が難化したとしても、それを解けるようになるために訓練すれば良いだけの話ではあるが、 その訓練量は少なからず多くなる。 これが過激化していることの第一点目である。
中学受験の人口は変わらない
もう1つは、 中学受験人口自体は変わっていないという事実から導かれる。 人口が0.7倍になってるのに、中学受験人口が変わっていないということはどういうことかというと、 昔ならば中学受験をしなかったであろう層が中学受験をしているということだ。 ここには、中学受験をする人口が増えれば増えるほど公立が荒れるので私立進学を促すという、 正のフィードバックが存在している。
25年前に中学受験をしていた子供というのはどういうものだっただろうか? これは明らかに2つのタイプに分けられた。 1つはおれのように遺伝的に恵まれた浮きこぼれのパターン。 もう1つは金持ちのパターンだ。 25年前の中学受験では、前者の子供が御三家に向けたバチバチの戦いをするか、 あるいは後者のパターンが公立より環境の良い私立中学を目指してほどよく勉強するか しかなかった。
ここに新たに加わったパターンは、 遺伝的にも優れていないし、お金持ちでもないパターンだ。 こういったパターンは、どうにかして捻出したお金で中学受験をしているのだから 我が子への期待は自然と大きくなり、結果として出来るだけ上位の学校へ進学を考えるわけであるが、 遺伝的には劣っているわけだから、問題自体が難化していることもあってそううまくは行かないわけであり、 それがダブルスクールや家庭教師などの課金ゲーに繋がってくるわけである。 残念ながら、最難関中学に合格する子供というのは今も昔も 最低限の授業と講習のみをとり、あとは家庭学習のみでささっと合格するものだ。 そもそもこの課金ゲーという言葉自体、彼ら以外には生み出すことは出来なかっただろう(笑)
現代の中学受験は簡単だ
それでは、遺伝的な要因だけを見た場合、偏差値はどの程度希釈されているのであろうか?
現在、開成の偏差値が72となっているが、25年前では69だった。 数字上の偏差値は上がっているのだが、これはこうした お客さんで母集団を希釈しているからだ。
同様に、おれの母校の麻布中学にしても、 遺伝的な要因だけを見れば25年前よりははるかに簡単になってるといえる。 同じ尺度でいえば麻布の偏差値は62かその程度になり、 それは当時でいえば浅野中学程度となる。 今の麻布学園では昔に比べてより生徒のことをきちんと管理するようになったと言われるが、 それは、こうしたことが理由になってるとすると頷ける。
はっきりいって、現代の中学受験はぬるすぎる。 御三家 or dieはジョークではなく、マジなのだ。