入試の直前は、小学校を休んだ。受験の準備もあるし、インフルエンザなどをもらってはいけないからだ。
これには当然外野からの強い批判も予想され、休む前にはこの謀反のために中学受験ママの内で作戦会議をしたと聞いているが、結果として、中学受験組は全員休んだ。その他でも私は、塾で疲れてるからという理由で特権的に小学校を休んだりもしていたが、中学受験の願書を出す段階では(なぜか)推薦状のようなものが必要で、それはちゃんと校長が書いてくれたということだから、あまり問題はなかった。ちょうどその校長が元算数の先生だということもあったように思う。
それより、当時はゆとり教育全盛で「子供にスパルタ教育をするのは良くない」と思い込んでいる人が多かったから、そういう奥様方との間に、中学受験組との軋轢があったということだ。中学受験組は、まさにそのゆとり教育から逃げようとしているわけで、日本人の気質的にそれは許されなかった。中学受験をする子は少なくなかったから、それは救いだった。
私はというと、休んでる間にかなり遊んでいた。放課後になるとひょっこり学校に顔を出して、サッカーをしていた。もうやることはやったから、それから何をやっても無意味という考えで、特に入試前日はずっとシムシティ2000をしていた。当然だろう。中学受験の準備は3年間だ。中には知能指数が高い子がいて、5年から始めたという場合もあるし、驚くべきことに麻布の同級生には6年から受験勉強をはじめて受かったという頭のおかしい子(それまでずっと将棋をしてたそうだ)もいたが、ふつうは3年。私は凡人側で、3年間準備していた。だから、それから一週間や二週間のスパートなど無意味で、いかにリラックスするかが重要だと考えていた。私は京大に合格した時の前日も、ゲームをしていた。G1ジョッキーというゲームである。なので、前日に勉強せずゲームをするというのは私の中で鉄板の調整法と信じられている。
前日の夕飯は何だったかは忘れたが、定番のカツ丼は消化に悪いという理由で回避したことだけは覚えている。それからお風呂に入り、ぐっすり眠ることが出来た。
中学受験をしていた時、私はよく、睡眠薬を飲んでいた。といっても漢方由来のそれほど強くはないやつで、興奮を抑えて、自然と眠ることが出来るようにする程度のものだ。だが、その日は、睡眠薬を飲まなかった。それでもぐっすりと眠れた。もう勉強はしなくていい。あとは試験を受ければすべてが終わる。その安心で、ぐっすりと眠れたのである。