ケーキの切れない非行少年という言葉だけは聞いたことがあったが、 おれは、貧困家庭出身で誕生日ケーキを食べたことがないという意味だと思っていた。 貧困から非行は想像しやすいからだ。 食べたことがないというのを洒落て「切れない」と言ってるんだろうと思ってた。
この本が元になって漫画が出ていたので、現在2巻まで出ているが、キンドルで買って一気に読んでみた。 面白いからみなさんも読んでみるといい。面白いよ。
ケーキが切れないというのは、1巻の表紙を見ればわかるが、丸いケーキを素直に三等分することが出来ないという意味だ。 ふつうの人ならば、答えはすぐわかる。Y字型に切ればいいのだ。しかし知能が低いボーダーの人にはこれが理解出来ない。 表紙のように、T字に切ってしまう子もいるし、等間隔に線を2本引いてしまう子もいる。
これは、少年院で行われるテストだ。 物語は、とある少年院で勤務する六麦精神科医が出会った子供たちについて描かれている。
原作者の宮口幸治さんが本を書いた目的は
- 犯罪を犯し少年院に来る子供たちの中にはこういったボーダーの人たちが多くいるという事実を知ってもらいたい
- そして彼らが犯罪に走らないように助けてほしい
だそうだ。 この人は立命館大学で臨床心理学を担当する教授のようだから、内容自体には誇張はないだろう。
なぜボーダーの子たちが犯罪を犯すか。 彼らは単純に物事を理解する能力が低い。だから社会で冷遇される。 それに加えて、自分の状況や感情を客観的に理解する能力も低いため、 怒りを整理することが出来ず、 最終的にはプッツンしてしまい、犯罪者となる。 親が離婚してるケースも多く、虐待を受けたケースも多い。 親もボーダーだから虐待を受けて、ネグレクトもされる という地獄のようなケースもある。 彼らはある日突然暴力的になったというわけではなく、 暴行を働くに至った背景には こういった事情があることを知ってほしいということである。
さて内容だが、 おれとしては、2巻の表紙になってる妊娠してる女の子門倉恭子の話が心に来た。 内容は読んでもらいたいが、最後に子供と一緒に自転車に乗ってるシーンが 残酷に思えて、泣いてしまった。
ボーダーに相当する子は知能指数の分布では14%を占める。 つまり35人のクラスであれば実に5人ものボーダーがいることになる。 彼らは上に書いたとおり、虐待やネグレクトを受けることもあるし、 容姿も清潔でないこともあり、バイキンと呼ばれいじめられることもある。
おれは偏差値が高く、中学からは麻布中学に進学したからこういった人間は見ることがなくなったが、 小学校はふつうの公立だったので何人かはこの漫画に出てきてもおかしくないような子がいた。 あぁあれがボーダーか。 そういえばものの見事にバイキンと呼ばれていたし、 おれも呼んでいたなぁ。 なんてひどいことをしたんだろう。 そういった後悔とともに記憶をたどっていくとまたさらに何人かは ボーダーだったかもしれない子が見つかった。
実際のところ、おれは頭が良いためほとんどの人は知的障害に見える。 頭の回転が遅く、わざとやっているようにしか思えなくてイライラすることもある。 だから、小学校の頃は他の子たちが自分と同じ「ふつう」と思ったことはなかったが、 確かに漫画に書いてある特徴にマッチするとなると、5人くらいしかいなかったような気はするし、 そうか彼らがボーダーだったのか。
おれは、中学からみんなと別れてしまったというのもあるし、 他人をバカだと見下していたというのもあるだろう。 小学校の同窓会には一度も呼ばれたこともない。 だから彼らが今どうなっているかは何も知らない。
門倉恭子が子供と一緒に自転車に乗ってるシーンは ハッピーエンドのように書かれているが、 彼女がボーダーであることには変わりないし、 その子供の愛菜が幼児期に虐待を受けていたという事実も変わらない。 従って、彼らはこれからも社会の中で苦しみながら生きるしかない。 これがさきほど残酷だと言った理由だ。
でも、それでもいいから、 おれの小学校にいた ボーダーの子たちがせめて、犯罪者にはなっていないよう、 せめて誰かに騙されて借金を負って風俗堕ちなんかしてないよう願っている。